腹腹ドキドキ。

不意に襲ってくる強烈な吐き気。
あまりの無防備さに、逆流した内容物が口元からこぼれそうになる。咄嗟に口を掌で押さえ込みながら瞬時に身を起こし、トイレに駆け込んで吐き出す。


いきなりきちゃないお話で申し訳ないのだが、これが今日の私の目覚めである。胃の中がカラッポになるまで嘔吐しても腹部の嵐はまだ収まらず。下から上へ向って突き上げてくるイレギュラーな動きに涙腺が緩み、涙と胃液が便器に落ちる。トイレで一頻り内容物を嘔吐し終えると、次は激しい腹痛。いつも通りのパターン。またか、と思う。しばらくトイレの狭い空間に横になり、吐き気が収まるまでうずってひたすら耐える。
頃合いを見計らって腹部をなだめるように手でさすりながら部屋に戻り、ベッドに倒れこんだと同時にアラーム音がけたたましく鳴り響く。音は空気の振動だ。そのわずかな振動さえも腹部に響く。まじ勘弁してくれよ。一人呟きながら手繰り寄せた目覚し時計の短針と長針は、互いに頂上部を指し重なり合う。12時。
悪夢のような最悪な目覚めだ。この理不尽で不条理な状況が、いっそ夢であって欲しいと願う。いや、夢だと思い込む。無理矢理思い込ませる。そして意識が、飛ぶ。


朦朧としながら布団の中に紛れ込んだ時計を見ると、既に20時30分。部屋は真っ暗だ。今が夜だと気付く。やべっ、大遅刻だ!一気に意識がクリアになる。それと同時に腹部に残留したイレギュラーな違和を感じる。白昼の悪夢は、夢なんかじゃなくて現実なんだと腹部が訴えかける。
私は消化器系の内臓に疾患を持っている。たまに発作的にこうなる。発作は体からの警鐘だ。うわぁ、ヤバイな。これがひどくなると、一切の食べ物を摂取できなってしまうのだ。内臓への不安は常に意識下にあるのだが、久しぶりに表層化したら、無性にこわくなった。だって、普通の生活が出来なくなるのだ。常日頃から私が渇望している安定というものは、一瞬で崩れ去る。それを思うと心が不安定になる。やっぱ、無理は禁物だ。休みは必要だ。疲労は、身体はもちろん精神にも影響を及ぼす。そう分かっているのだが、働き続けると休みをとるタイミングが分からなくなる。休むのが勿体無くなる。こういう思考パターンになっている時点で、バランスは崩れているのだ。
さて、いつ頃休養をとろうか…アンバランスな思考では考えも及ばない。なんだか切羽詰ってくる。焦燥感を誤魔化すように平静を装い、家を出る。7時間30分遅刻で22時30分から3時まで4時間30分ネカマ。わかっちゃいるけど、やめられない。