「富士山」読了。

敬愛する田口ランディ女史による、富士山をテーマにした4編からなる短編集。直木賞候補作品。
以前にランディさんの著作について書いた時にも触れたことなのだが、今回の主人公達も、この社会に疲弊したもの特有の闇を背負っている。その一方で、この社会の外側に在る「何か」を感じ取っている。そんな主人公達に光明を与えるのが、本作のテーマである富士山だ。

富士山は、不思議な存在です。
美しく輝く富士山を見ると、なぜか得をした気分になる。
きょうは富士山を見たよ、きれいだったよ、
と、誰かに伝えたくなる。
だいじょうぶだよ、と励まされる。
生きろ、と呼びかけられる。


〜本書あとがきより〜

子供の頃、みんな富士山が見えるとはしゃいでいた。「富士山見えるぜー!」「うわぁ、でっけー!」「すげー!きれい!」天邪鬼な私は、そうやってはしゃぐ同級生達の輪には決して入らなかった。「富士山見ただけで、なんでそんなに騒げるんだ?くだらない・・・」そんな風に思いながらも、富士山を横目に見つめていた。何故、富士山には目を奪われるのだろう?
あとがきでランディさんが言う感情と言うのは、日本人の多くが持っている感情のような気がする。八百万の神と称されるように、古来から日本人はアミニズムを信仰としてきた。その最大の信仰の対象として、富士山は在る。強力な磁場を持つ広大な裾野を従えて悠然とそびえる富士山に威容を感じ、崇め、畏怖の念を持って敬ってきた。
自然界にある全てのモノには精霊が宿っている。それらに感謝し、慈しみながら暮らしていくという考え。素晴らしいなぁと思う。モノに溢れ、尋常じゃない速度で消費を続ける今だからこそ、より心に深く響く。本作の主人公達のように、超然とした自然に光明を見出せる人は多いのではないかと思う。
久しぶりに、富士山見たいなぁ。

富士山

富士山

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